肩の力を抜くとは by Kazuko (ヨガ・マインドフルネス講師)

肩の力を抜くとは by Kazuko (ヨガ・マインドフルネス講師)

まずは深呼吸。
こんにちは、そしてこんばんは。
Kazukoです。

「肩の力を抜いてください」
そう言われて、すぐに抜けた経験はあるでしょうか。

ふとしたとき、自分の肩にどれくらい力が入っているかに気づくこと。
それだけで、呼吸も気持ちも、少し変わってくることがあります。

私たちは、日常の中で驚くほど頻繁に肩に力を入れています。スマートフォンを見ているとき、人と話しているとき、あるいはただ歩いているときさえ。


1. 無意識に入ってしまう「ちから」

無意識のうちに肩が持ち上がり、それが“いつもの自分”になっていることもあります。背景には、“ちゃんとしなくちゃ”という意識や責任感があり、知らず知らずのうちに体が緊張のモードに入っているのです。

けれどこれは、単なる「姿勢の癖」だけでは説明できません。肩に力が入る現象の裏には、身体の構造、神経の働き、社会的なふるまいのパターンなど、いくつもの要因が関係しています。

本記事では、肩に力が入りやすくなる背景を身体と神経のしくみから見直しながら、日常に取り入れられる小さな工夫をご紹介していきます。


2. 肩はなぜこるのか?構造としくみ

肩こりは、単なる疲労ではありません。そこには、「構造と重さ」と「緊張のクセ」が関係しています。

私たちの腕は、鎖骨・肩甲骨・上腕骨などが複雑に連動して支えています。
片腕の重さは、体重の約6〜7%。あなたの体重が50kgなら、片腕はおよそ3.3kg。両腕で約6.6kgの重みが、日常的に肩にぶら下がっていることになります。

デスクワークやスマートフォンの使用で、腕が前に出たままの姿勢が続くと、肩甲骨が外側に引き伸ばされ、首や背中の筋肉がずっと引っ張られた状態に。これが、肩こりや不快感の原因になります。

また、心理学の視点からも、ストレスや不安が身体の緊張を引き起こすことがわかっています。
「気が張っている」という表現は、まさに肩の筋肉が無意識に収縮している状態です。身体と心は、いつもつながっているのです。


人の身体は、安心してはじめて力が抜けるようにできています。
これは「ポリヴェーガル理論」と呼ばれる神経生理学の考え方にも通じています。

この理論では、私たちの自律神経(とくに副交感神経)は“安全”を感じたときに働きはじめ、心拍が落ち着き、呼吸がゆっくりと深くなり、筋肉もやわらかくなっていくと言われています。

逆に、ストレスや不安を感じると、体は「戦うか逃げるか(fight or flight)」の状態になり、無意識に肩が上がり、背中が硬くなることがあるのです。

肩の力を抜くには、ストレッチなどで身体をゆるめることももちろん効果的ですが、日常の中でふと緊張に気づいたとき、たとえば電車の中や信号待ちのとき、車の運転中など。
その場で呼吸や姿勢に意識を向けられるかどうかが、大きな鍵になります。


3. 肩の力を抜く“練習”をしてみる

ある日、生徒さんがこんなことを言ってくれました。

「ヨガをして、初めて肩が凝っていたことに気づきました。」

ヨガでは、ただ動くだけでなく「気づく」という瞬間があります。「自分は今、どこに力を入れているのか」「どんな呼吸をしているのか」そんな感覚に気づくことが、緊張をゆるめる第一歩になります。

ただし、もともと肩がガチガチにこっている方にとっては、「ただ力を抜いてください」と言われても、むしろ難しく感じることもあるでしょう。
そこでおすすめしたいのが、筋弛緩法(漸進的筋弛緩法)という、力の出し入れを利用してゆるみを生み出す方法です。

無理なく取り入れるために、いくつかだけ注意点を。肩や首に痛みがある方は、強く力を入れすぎないように。また、めまいが起きやすい方は、座るか横になって、安心できる姿勢で行いましょう。
ご自身の体調にあわせて、心地よさを優先してくださいね。


【やってみよう:肩のための筋弛緩法】

  1. 楽な姿勢で座るか仰向けになります。
  2. 肩を「ぐーっ」と耳に近づけるように思いきりすくめて、5秒ほどキープ。
  3. 息を吐きながら、ストンと肩を落とし、一気に力を抜きます。
  4. 肩〜腕にかけて、余韻のように広がる脱力感に意識を向けましょう。
  5. これを2〜3回繰り返します。

【椅子ヨガ:キャット&カウ】

忙しい日常の中でこそ、ほんの数十秒でも体をゆるめられたら、それだけで大きな変化につながります。たとえば、オフィスや自宅の椅子に座ったままできる、こんな動きがあります。

  1. 椅子に腰かけ、背筋を伸ばす。
  2. 息を吸いながら胸を開き、肩を後ろに引いて背中を反らせる。
  3. 息を吐きながら背中を丸め、肩甲骨を左右に広げるように意識。
  4. 呼吸と連動して、ゆっくり5セット繰り返す。

背骨と肩甲骨の動きが連動することで、凝り固まった上半身がじんわりと温まり、自然と呼吸も深まっていきます。


4. 五感をゆるめる。目元から始まる深い休息

肩の緊張をほどくには、視覚・聴覚・触覚といった五感の過剰な刺激を落ち着かせることも大切です。

特に「視覚」は、私たちの五感の中でも圧倒的に大きな割合を占めています。実際に、脳が処理する感覚情報の約80%以上が視覚から得られているとも言われています。それだけに、目からの情報が絶えず流れ込んでいると、脳も肩も休まる暇がないのです。

そんなとき、そっと目元にアイピローをのせてみるのも一つの方法です。
視覚をシャットアウトすることで脳が静まり、まぶたや額の緊張もゆるみやすくなります。さらにラベンダーなど天然の香りがあれば、呼吸もゆっくりと深くなり、リラックス状態へと誘導されやすくなります。

目元から広がるやわらかな重みが、肩にも伝わってくる。手のひらに収まるこのアイテムが、頭と体のスイッチをそっと“休息モード”へと切り替えてくれます。


5. おわりに:ゆるめるという、生き方の選択

たとえば、信号待ちのときや画面の読み込みを待つあいだ、あるいは会議が始まる前の数十秒。そんなふとした隙間に、自分の肩がどんな状態かを観察してみる。

肩に少し力が入っていることに気づいたら、一度すくめて、ゆっくり吐きながらストンと落とす。それだけでも、呼吸が自然と深まり、頭の中のスピードもほんの少し落ち着いていくのを感じるかもしれません。

私たちの身体は、意識が戻った瞬間から変わりはじめます。肩の緊張を「気のせい」や「疲れのせい」で済ませず、パターンとして見つけて、介入していく。それは、自分のコンディションに自分で責任を持つという、前向きな態度とも言えるでしょう。

肩の力を抜くことは、そうした“小さな再起動”のひとつです。外の期待に振り回されがちな毎日のなかで、自分のベースラインに戻る方法。

そう思うと、肩に意識を向けるその数秒は、意外と大きな意味をもっているのかもしれません。


プロフィール

Kazuko.YogaのKazukoです。
名古屋を拠点にヨガ・マインドフルネスの講師をしています。スリランカやバリでアーユルヴェーダとヨガを経験。12年間の会社員生活を経て2018年からクラスを主宰し、スタジオやイベントでも“やさしいヨガ”や陰ヨガのクラスを行っています。呼吸と身体の感覚に寄りそう時間を大切にしています。旅と自然、紅茶とアニメが好き。

・Instagram @kazuko.yoga
・noteで読む、日々の気づきと呼吸のこと → https://note.com/kazuko_yoga
・ホームページ → https://kazuko.yoga/

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